そろそろ忘れそうな大阪弁

「記憶が頼り」という間違った言語採集。たぶん河内方言風味。

探し物が見つかる言葉

2007.01.22 Monday
そろそろ忘れそうな習俗

ときどき、探し物という実に無駄な用事が発生します。どこに置いたか思い出せなかったり、どこに仕舞ったのか思い出せなかったり、いつも置いてあるはずの場所になくて困ってしまったり。

そんなとき、ばあちゃんは謎の呪文を唱えながら探していました。この言葉を唱えながら探せば必ず出てくる、と。

清水の滝の水は尽きるとも失せず

針の出でぬことなし

見るからに針を見失ったときに唱える言葉だと思うのですが、ばあちゃんはありとあらゆる探し物でこれを唱えていました。こういうのは「3回唱える」と回数が決まっていたりしがちですが、ばあちゃんによるとこれは探している間ずっと唱え続けるものなのだそうです。

子供心にどうもこの呪文の字数におさまりの悪さを感じていたのですが、いつぞやにおさまりの良い字数の同じような言葉を知りました。

清水の音羽の滝は尽きるとも

失せたる針の出でぬことなし

五七五七七。たぶん、これかこれに近いものが元のバージョンで、それがいろんな経路で口伝されていくうちに祖母バージョンになったんじゃなかろうかと思います。そういえば京都・清水寺に音羽の滝というのがあったような。

これを受け継いでくれる対象もいないので、忘れないように記録。

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    まんまんちゃん、あん

    2007.01.21 Sunday
    そろそろ忘れそうな大阪弁 > マ行

    昔ながらの京都・大阪の言葉を語るうえで、なぜか外せないことになっていそうな「まんまんちゃん、あん」。幼児語…なんだけど、いまどきの子供にコレを言う人はどれぐらいいるんだろう。

    私が子供の頃の話。

    ごはんが炊き上がっても人間が先に食べてはいかんのですよ。何をさておいても、まず仏さんに供えなさいと。で、ばあちゃんが専用の小さな仏具にごはんをよそって孫に手渡しながら言うのです。

    使用例:「ぶったんおっぱんあげて、まんまんちゃん、あんして来(き)」
    (訳:仏壇へ仏飯を供えて、手を合わせて拝んで来なさい)

    あらためて文字にしてみると謎の呪文にしか見えないなと、書いていて思います。

    これを家で毎日聞かされるのは、家に仏壇がある・この言い回しをする家族がいる・ご飯を供える習慣がある、という条件が揃った場合に限られそうなので、そうでない場合はそれなりの年齢の人でも聞き覚えがないのかもしれません。

    私の場合、読点が入ったままでサ変というよくわかんない感覚で使っているときもありそうです。サ変動詞「まんまんちゃん、あん・スル」として。実際はきちんと読点のところで区切れます。読点のところに助詞「に」を入れて言う人もいるぐらいに、しっかり区切れます。

    「まんまんちゃん」「あんスル」の解釈は一部で揺れがあるようです。以前、「あんスル=『あん!』と声に出して言う」説をどこかで見たときは衝撃でした。寺社巡りをしてみると、手を合わせながら「あん!」と叫ぶ子供に出くわすのでしょうか。

    私の印象としては「まんまんちゃん=仏さん」「あん=仏さんに向かって手を合わせて拝む様子」。

    いたって個人的な偏ったイメージまで行くと、仏さん=まんまんちゃんに向かって目を閉じて頭(こうべ)を垂れて手を合わせ「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…」とひとしきり唱えてから、「あんっ!」という何かの発露とともに鈴(りん)をチーンと鳴らすという一連の流れがまんまんちゃん、あんでした。「あんしなさい」と言われたら拝もうとするはずなのですが。

    「あん」で頭を下げるんだという方や、ひとしきり拝み終えて息継ぎのような心持ちで頭を上げるときが「あん」だという方もいらっしゃるかもしれません。私が勝手に鈴を鳴らすタイミングで「あん」を思い浮かべていただけの話です。

    うちでは当然のこととして言われませんでしたが、家によっては「おっちんして」がセットになっていた場合もあったようです。

    使用例:「ぶったんとこ行て(促音が落ちる)、おっちんして、まんまんちゃん、あんしといで」
    (訳:仏壇のところへ行って正座して、仏さんに手を合わせておいで)

    今も一部ではしっかり生き残っている表現のようですが、こういう生活習慣自体が各家庭から消えつつあるんじゃないかと。

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      かる

      2007.01.20 Saturday
      そろそろ忘れそうな大阪弁 > カ行

      漢字で書くと「借る」になる、かる。アクセントはHH

      この語は諸事情でみるみると廃れていますが、「染みる」に対しての「染む(しむ、しゅむ)」、「足りる」に対しての「足る(たる)」など、古い活用をしてそうな動詞の生き残りはちらほら。

      例:「醤油切れたさかい、かってこうか?」
      (訳:醤油が切れたから、[隣近所から]借りて来ようか?)

      醤油を「かってくる(HHHLL)」ときはタダです。

      例:「ええ、ええ。こうてくるよって」
      (訳:いいよいいよ。買ってくるから)

      お金が要るのは「こうてくる(HHHLL)」ときです。

      例:「醤油ぐらい、かわんかてかったらしまいやがな」
      (訳:醤油ぐらい、買わなくても借りれば済むことじゃないか)

      買わなくていいから「かってこい」と。

      標準語のことを考えると、紛らわしいわけです。学校の「こくご」で習うのは標準語。テレビやラジオで主に聴くのも、標準語でも本来の東京方言でもないかもしれないけど「それらしき落としどころ」のような言葉。多かれ少なかれ影響を受けます。

      また、成長していくにつれて行動範囲が広くなったり生家から離れた場所が生活圏内になったりして、いろんな地域の人と関わりを持つようになります。そうなると「借ってくる」と言うと「買ってくる」だと解釈されそうな状況も増えてくるのです。

      誤解や混同を避けたいという事情もあったのだと思うのですが、今では「借る」ではなく「借りる」が主流になっています。そして「かってくる」も「こうてくる」も、「買って来る」の意に。

      きちんと調べたわけではないのですが、借った買うたの話をするときに隣近所から醤油を借りるという時代設定に問題がありそうな例を使ってしまうのは私だけではなさそうな気がします。

      ちなみに、私の家では20年と少し前には本当に醤油を借んに行く(かんにいく)事態が起きていました。

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        ぶったん

        2007.01.20 Saturday
        そろそろ忘れそうな大阪弁 > ハ行

        「仏壇」です。アクセントはHHHH。これ以上説明の書きようがない。あっ。

        最後の「…たん」の発音が惚れ惚れするほど曖昧なところがポイントかもしれません。まかり間違っても「た」のあとに「ん」が続くのではなく、「…たん」で鼻母音ひとつです。アクセントの表記も本当はHHHでよさそう。

        あとに続く助詞等が「を」「へ」など母音になっている場合、鼻母音から滑らかに助詞へ移行します。むしろ、続きの母音も影響を受けて鼻母音化。

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          さいだっ

          2007.01.20 Saturday
          そろそろ忘れそうな大阪弁 > サ行

          「そうです」の意。アクセントはHHH。最後に「っ」を書くかどうか迷いましたが破裂しない閉鎖音が入ってそうなのでつけました。閉鎖するのは「そうだそうだっ!」の「っ」で閉じるところとたぶん同じ部位。

          さい」だけ取り出して「そう」「左様」という意味を当てればよさそうなのですが、なんとなくばあちゃんの「さいだっ」が懐かしいので一連の表現として。

          さいだす」の「す」が落ちたものだと思います。「さいだす」で通じるはずなのですが、祖母がさいだすと言っていた記憶がありません。

          さいだっ」「さいださいだっ」と言えば「そうです」「そうですそうです!」と同意する意味になるのですが、「そうです」と同じく後ろにいろいろつきます。

          例:「さいだっせ」
          (訳:そうですよ)

          例:「さいだんな」
          (訳:そうですね)

          例:「さいだっか」
          (訳:そうですか)

          例:「へえへえ、さいだっかさいだっか
          (訳:はいはい、そうですかそうですか

          最後のを言われると、どうしようもなく突き放された気持ちになります。人によっては「さいでっせ/さいでんな/さいでっか」なのかもしれない。

          いまどきは「さいだっ」「さいだっせ」「さいだっしゃろか?」と言っている人に出くわすこともありません(そういえば「〜だっせ」自体聞かない)。言えば、いちおう通じるのかな?

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