そろそろ忘れそうな大阪弁

「記憶が頼り」という間違った言語採集。たぶん河内方言風味。

よす

2007.01.27 Saturday
そろそろ忘れそうな大阪弁 > ヤ行

「直す、修理する、修繕する」の意。アクセントはHH。漢字で書くとどうなるんでしょう。るんだろうか。調べないのでわかりません。

子供の頃に関西に引っ越してきた人が新しくできたお友達と遊んでいるときに、別のお友達がやってきて「よーしーてー」LLH)と言われ、「私、どうしてよして=止してなんて言われるんだろう?」と驚くという、あの「よす」(仲間に入れる)ではないのです。あれはたぶん漢字で書くと「寄す」で、アクセントがLHです。

自転車も自動車も「よす」対象です。家電製品も「よす」のです。衣類も「よす」し、家屋も「よす」のです。病気を「治す」ことは「よす」とは言いません。

タイヤがパンクした自転車を押して自転車屋さんへたどり着いて

例:「すんまへん、パンク(HLL)したよって、よしとくんなはるか?」
(訳:すみません、パンクしたので修理していただけますか?)

と言ったりしていたわけです。冷静に考えると、年寄りが言うタイヤの「パンク」は、パンクロックの「パンク」と同じアクセントになっている気がします。

ばあちゃんなどは何かにつけて

よしたら使える

と言っていろんなものを修繕して使っていたのですが(その割りに機械ものや日曜大工方面は孫の私があれこれしてたような)、いまどきは「修理代のことを考えると直さずに新品に買い替え」なんて時代かもしれません。

この言葉は、たぶん「理解できる人」はまだそれなりにいるんだけど、「日頃から使う人」があまりいない、というたぐいのものかもしれません。滅多に聞かなくなりました。大阪市内で聞ける頻度が極端に落ちているだけで、周縁部ではまだまだ多用されているのかな。

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    しょうみ

    2007.01.26 Friday
    そろそろ忘れそうな大阪弁 > サ行

    漢字で書くと「正味」。アクセントはLHL。「正味重量」「正味100g」というような用法では標準語として通用してるのかな。容器や包装などの余分を取り除いた部分が「しょうみ」で、その重量。

    で、建前や世間体や諸々の思惑等の余分を取り除いた部分、「本音」「本当」「実際」の物事もしょうみです。横山やすしさんの物まねで出てきがちな「しょうみのはなし」も、この正味の話です。

    例:「しょうみ言うたら、店、畳もか(たともか)思てん(おもてん)ねや」
    (訳:本音を言うと、店を畳もうかと思ってるんだ)

    そんな本音を急に聞かされても困ります。

    例:「で、しょうみ、どないだんねん」(話がはっきりしない人に向かって)
    (訳:で、実際、どうなんですか)

    詰め寄られてもやっぱり困ります。

    しょうみ」という語をつかう人自体が少しずつ減っていたのですが、さらに「ぶっちゃけ、―。」「正直、―。」という表現が急速に伸びてしまったので、いまどきは「正味」を聞く頻度も急速に減ったように感じます。「正味」の意味がわかりにくい人には、いまどきの「ぶっちゃけ」に相当と説明すればよいのかもしれません。

    「ぶっちゃけ」てないのに「ぶっちゃけ」とついつい言ってしまう人がいるのと同様、ウソで塗り固めた話を「正味な…」ともっともらしく語ってしまう人も世の中にはいるようです。

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      いぬ

      2007.01.24 Wednesday
      そろそろ忘れそうな大阪弁 > ア行

      「家に帰る」ことなのですが「(家に帰るために)ある場所から去る」と書いたほうが正確なのかもしれません。アクセントはHH。漢字で書くと「去ぬ」か「往ぬ」なのでしょう。ちなみに「犬」はアクセントがHLです。

      古文でナ行変格活用とかいうのがあったような気がするのですが、あの「去ぬ」と元は同じなんだと思います。古文ではないので「いな-しまへん、いに-まっさ、(略)、いの-かいな」と活用させておけばよさそうです。たぶん五段ほどあります。「去ぬる」や「去ぬれ」はありません。

      「去ね!(いね!)」と厳しい口調で言うのは、喧嘩腰で「(目の前から)失せろ/出て行け/とっとと帰れ」と言うような稀有な事例です。なぜかこうした部分だけが印象に残りやすくて「河内弁=怖い」になる場合も多々あるようですが、実際の「いぬ」はもっと一般的に普段の会話で何気なく使われるものです。目上の方が「去なはった(いなはった)」りもします。

      例:「今日の晩、すき焼きやさかい、ここらで去にまっさ(いにまっさ)」
      (訳:今日の晩御飯はすき焼きなので、この辺で帰りますね)

      例:「はよ去なんならん(はよいなんならん)」
      (訳:早く帰らなくてはならない)

      「はよいなんならん」、アクセントはLLHHHLLLです。そういえば、どこにも説明を書かないままL(低)やH(高)でアクセントを表記しています。また書こう。

      学校や会社や外出先から「去ぬ」、そして家に着くのが基本です。また、自宅に来ていた客人が目の前から去って帰途についた場合も「お客さん、去なはった(いなはった)」。「去ぬ」はどうやら出発していそうです。帰って到着する意味ではないのです。

      移動する人が今いる場所「から離れて」家に帰るというような意味合いなので、家にいるおかあちゃんに電話をしたときに「あんた何時になったら、*家に去ぬん?」と言われることはありません。そういう用法が存在する地域もあるのかもしれませんが。

      家にいる家族側から「何時になったら帰って来るのか?」と尋ねるときには、もってくるという言葉を用います。「(家に)戻ってくる」の意。こちらが到着

      これは同年代の人でもときどき使っているのを聞くのですが、だんだん聞く機会が減っているように感じます。

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        まんまんちゃん、あん

        2007.01.21 Sunday
        そろそろ忘れそうな大阪弁 > マ行

        昔ながらの京都・大阪の言葉を語るうえで、なぜか外せないことになっていそうな「まんまんちゃん、あん」。幼児語…なんだけど、いまどきの子供にコレを言う人はどれぐらいいるんだろう。

        私が子供の頃の話。

        ごはんが炊き上がっても人間が先に食べてはいかんのですよ。何をさておいても、まず仏さんに供えなさいと。で、ばあちゃんが専用の小さな仏具にごはんをよそって孫に手渡しながら言うのです。

        使用例:「ぶったんおっぱんあげて、まんまんちゃん、あんして来(き)」
        (訳:仏壇へ仏飯を供えて、手を合わせて拝んで来なさい)

        あらためて文字にしてみると謎の呪文にしか見えないなと、書いていて思います。

        これを家で毎日聞かされるのは、家に仏壇がある・この言い回しをする家族がいる・ご飯を供える習慣がある、という条件が揃った場合に限られそうなので、そうでない場合はそれなりの年齢の人でも聞き覚えがないのかもしれません。

        私の場合、読点が入ったままでサ変というよくわかんない感覚で使っているときもありそうです。サ変動詞「まんまんちゃん、あん・スル」として。実際はきちんと読点のところで区切れます。読点のところに助詞「に」を入れて言う人もいるぐらいに、しっかり区切れます。

        「まんまんちゃん」「あんスル」の解釈は一部で揺れがあるようです。以前、「あんスル=『あん!』と声に出して言う」説をどこかで見たときは衝撃でした。寺社巡りをしてみると、手を合わせながら「あん!」と叫ぶ子供に出くわすのでしょうか。

        私の印象としては「まんまんちゃん=仏さん」「あん=仏さんに向かって手を合わせて拝む様子」。

        いたって個人的な偏ったイメージまで行くと、仏さん=まんまんちゃんに向かって目を閉じて頭(こうべ)を垂れて手を合わせ「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…」とひとしきり唱えてから、「あんっ!」という何かの発露とともに鈴(りん)をチーンと鳴らすという一連の流れがまんまんちゃん、あんでした。「あんしなさい」と言われたら拝もうとするはずなのですが。

        「あん」で頭を下げるんだという方や、ひとしきり拝み終えて息継ぎのような心持ちで頭を上げるときが「あん」だという方もいらっしゃるかもしれません。私が勝手に鈴を鳴らすタイミングで「あん」を思い浮かべていただけの話です。

        うちでは当然のこととして言われませんでしたが、家によっては「おっちんして」がセットになっていた場合もあったようです。

        使用例:「ぶったんとこ行て(促音が落ちる)、おっちんして、まんまんちゃん、あんしといで」
        (訳:仏壇のところへ行って正座して、仏さんに手を合わせておいで)

        今も一部ではしっかり生き残っている表現のようですが、こういう生活習慣自体が各家庭から消えつつあるんじゃないかと。

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          かる

          2007.01.20 Saturday
          そろそろ忘れそうな大阪弁 > カ行

          漢字で書くと「借る」になる、かる。アクセントはHH

          この語は諸事情でみるみると廃れていますが、「染みる」に対しての「染む(しむ、しゅむ)」、「足りる」に対しての「足る(たる)」など、古い活用をしてそうな動詞の生き残りはちらほら。

          例:「醤油切れたさかい、かってこうか?」
          (訳:醤油が切れたから、[隣近所から]借りて来ようか?)

          醤油を「かってくる(HHHLL)」ときはタダです。

          例:「ええ、ええ。こうてくるよって」
          (訳:いいよいいよ。買ってくるから)

          お金が要るのは「こうてくる(HHHLL)」ときです。

          例:「醤油ぐらい、かわんかてかったらしまいやがな」
          (訳:醤油ぐらい、買わなくても借りれば済むことじゃないか)

          買わなくていいから「かってこい」と。

          標準語のことを考えると、紛らわしいわけです。学校の「こくご」で習うのは標準語。テレビやラジオで主に聴くのも、標準語でも本来の東京方言でもないかもしれないけど「それらしき落としどころ」のような言葉。多かれ少なかれ影響を受けます。

          また、成長していくにつれて行動範囲が広くなったり生家から離れた場所が生活圏内になったりして、いろんな地域の人と関わりを持つようになります。そうなると「借ってくる」と言うと「買ってくる」だと解釈されそうな状況も増えてくるのです。

          誤解や混同を避けたいという事情もあったのだと思うのですが、今では「借る」ではなく「借りる」が主流になっています。そして「かってくる」も「こうてくる」も、「買って来る」の意に。

          きちんと調べたわけではないのですが、借った買うたの話をするときに隣近所から醤油を借りるという時代設定に問題がありそうな例を使ってしまうのは私だけではなさそうな気がします。

          ちなみに、私の家では20年と少し前には本当に醤油を借んに行く(かんにいく)事態が起きていました。

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